ファミリーコンステレーションの取扱説明書
〜誤解したまま関係を終えないために〜
2 続・事前に理解すること
迷走神経の反射は、本人が胎児から現在に至るまでの間に経験した、生命の危険や不安を感じた出来事が最も影響が大きいと言いましたが、これはいわゆるトラウマの切っ掛けとなる出来事のことです。
ここで言うトラウマとは、
人が強いショックやストレスを引き起こす過度な体験をしたとき、または、ショックやストレスを引き起こす体験を繰り返した後に様々な心身の症状が現れること
であり、何らかの出来事が原因となって、迷走神経の3つの反射である
1:安心・安全を感じて、社会生活ができる状態
2:身の危険や不安を感じて、戦ったり、逃げたりする準備、または、そうする状態
3:危険や不安から逃げ切れないと悟り、感覚を麻痺させたり、記憶を喪失するなどの状態
の2や3の状態になり、後に様々な心身の症状が現れることです。
トラウマを定義した上で注目したいのは、トラウマを抱えることにより、客観的に見て身の危険や不安を感じる必要がない状況であっても、迷走神経が身の危険や不安を感じると2や3の状態になってしまうということです。これは、事実関係として似ているというよりも、雰囲気や感覚として似ている状況でも起こります。
これは、私たちの生存本能が、過去に経験した危険や不安から学習し、同じ危険に会わないようにしているためだと考えられ、生き延びることが今よりも難しかったであろう原始の時代であれば、役に立ったことが想像できます。
しかし、同じような見の危険や不安に繰り返し遭遇することが少ないであろう現代において、この生き延びるための神経の反射は、周囲から見れば、感情の起伏が激しい人、何を考えているのかわからないなどと思われ、二重三重に苦しむことになります。
なお、残念ながら、このトラウマが時間の経過とともに無くなっていくことは期待できません。子どもの頃に一度自転車に乗ることができるようになると、何十年と自転車に乗っておらず、どのように乗っていたのかすらも忘れていても、何事もなかったかのように乗れるのと同じように、トラウマに関わる記憶はそれに関わる出来事を忘れてしまったとしても、同じような状況下になると心身は自然に反射するのです。これも、生存するための機能と言えます。
ここまでに述べてきた迷走神経の働きとトラウマは、生存するために本能として持って生まれたもので、私たちが自らの意思や思考によってコントロールできるものではありません。しかし、このコントロールできない神経の働きが、本人が望まないような状況で働いてしまうことが、悩みや苦しみの原因と言えます。
少し視野を広げてみると、そもそも、私たちの身体は、自らの意思や思考によってコントロールできる部分の方が圧倒的に少ないことがわかります。そして、そのコントロールできない部分は、生存のために働いています。
ここから私が理解したことは、生きることと、自分らしくいることの間で苦しんでいるのだということでした。
【参考文献】
トラウマとトラウマの記憶については、以下の書籍を参考にしています。
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